つまりこういうこと
天体写真を撮ってる人は、「低照度相反則不軌」って言葉をご存知だと思う。これは、露光時間が1秒を越えたあたりから化学変化が飽和状態になって、光が当たっているのに十分な露光が稼げなくなる(露出不足になる)フィルム特有の現象のこと。
だから、暗い天体を2時間露出しても、1時間露出の倍は写ってくれない。満足いく写を得るには、それはそれは長い露光時間が必要だったのだ。
この低照度相反則不軌を回避するために、いろんな技が登場した。例えば、コダックは103aEっていう白黒フィルムを開発した。粒子がめっぽう粗いフィルムだったけど、赤の感度が高くて、80年代にすごく流行った。藤井旭さんのカリフォルニア星雲とか、中学生の自分には印象深かったなぁ。
90年代になると、今度は水素増感って技が出てきた。フィルムを真空引きした後に水素に浸す。するとなんでか低照度相反則不軌が激減した。この技をコダックの超微粒子白黒コピーフィルム「テクニカルパン(TP)」に使うことで、天体写真に革命が起こった。
TPはISOが25程度と低感度ながら、低照度相反則不軌がないもんだから、露出すればしただけどんどん光を吸収してくれた。ISO400あたりのフィルムを使うより、はるかに赤い星雲が写って楽しかった。みんな暗室でD19(っていう現像液)を撹拌したもんだ。
ところが、デジタルにはこの低照度相反則不軌がない。そりゃそうだ。フォトダイオードだもん。電気信号は光の量に「比例」して増えてくれる。だから、2時間露出すれば1時間の倍写る。これはうれしい。
一般的なデジタル一眼はHαの感度が悪くて赤の描写が悪いけど、それさえクリアしてしまえば星雲はとにかく写ってくれるようになった。一方で、恒星の部分は光がすぐサチるという問題もおきた。恒星の部分の光量が富士山型じゃなく台形になると、「ぼてっ」とした印象になる。だから、デジタルの天体写真の画像処理では、わざわざ高輝度部分の露光量を抑えて、さもフイルム風な写り方にする「デジタル現像」という過程が必須になっている。ヘンなハナシですけど。
ところで、逆に、低照度相反則不軌がとてつもなく大きなフィルムがあったらどうでしょうか?
明るい部分はどんだけ露光しても白トビせずに階調を残し続け、新しく光が当たった部分はISO200くらいで露光してくれるとしたら?
「東京のような大都会ででも、星景写真が撮れると思いませんか?」
別にデジタルだから撮れるわけじゃない、フィルムでもできるんじゃないかと思うんです。例えば、超高感度だけど低照度相反則不軌のすごく大きいコニカのGX3200を、NDフィルターでわざわざ暗くして撮影したら? それじゃ甘いなら、T-MAX3200を+4段増感してさらに超軟調処理するのを前提に、ND400(っていう真っ黒なフィルター)を使って撮影するってのは?
できるかどうかは別として、やってみればいいと思うんですよね。それでもし都会の星が撮れたら、その写真はやっぱりすごく不思議な、それまでの常識外の写真なんだと思います。
私がデジタルを使っているのは、「結果が同じなら、過程が簡単な方を選んだ」というだけ。たまたま東京に異動になったので、ここでも撮れる天体写真を考えた結果に過ぎません。もし先にT-MAXの増感を思いついていたら、そっちを試したと思う。
もう一つ。確かにデジタルは画像加工が簡単です。が、アンシャープマスクだって覆い焼きだってゾーンシステムだって(これは違うか)フィルム時代の技術でしょ。印画紙の上に、単なる光の線を描き足すなんて簡単なことですよ。印画紙の露光中にわざと暗室の電気をつけるんだから。ソラリゼーションするために。
それを、デジタルで撮影しているというだけでCGみたい、って、特に、フィルムにこだわってらっしゃる方はおっしゃいますけど、何度でも言います。過程が簡単なほうが楽っちゅうだけです。
私も、今でも、引けない場所でえぐいアオリを使わないといけない建築写真を撮れって言われたら、迷わず4×5か8×10の大判を使います。だって、そっちのほうが楽なんだもん。カメラって、写真を撮るための「道具」じゃないんかなぁ?
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